はじめに
車椅子に座っているご家族が「いつの間にか体が横に傾いている」「お尻が痛くてすぐにベッドに戻りたがる」といった様子を見て、どうにかしてあげたいと悩んでいませんか?
無理に標準的な車椅子に座り続けると、床ずれ(褥瘡)が発生したり、姿勢崩れによる誤嚥(ごえん)のリスクが高まってしまいます。
せっかくの離床時間が、ご本人にとって「苦痛な時間」になってしまうのは一番避けたいところです。
この記事では、福祉用具専門相談員が、姿勢を安定させる「ティルト・リクライニング車椅子」の選び方についてご紹介します。
- ティルトリクライニング車椅子は「どんな人」におすすめか
- 「ティルト」と「リクライニング」の違いと使い分け
- 住宅環境や介助者に合わせた失敗しない3つの選び方
- 福祉用具専門相談員が厳選したおすすめ機種5選
- 購入とレンタルの費用相場
ご本人の状態にぴったりの一台が分かり、「座る時間」を「安楽になれる時間」に変えることが期待できます。
姿勢崩れやお尻の痛みが悩みなら、「ティルト機能」が備わったモデルを優先的に検討することがポイントです。
ティルトリクライニング車椅子は「どんな人」におすすめ?
どのような方にティルト・リクライニング車椅子が必要なのでしょうか? 福祉用具専門相談員が現場で判断基準にしているポイントをまとめました。
こんな悩みがあるなら検討のサイン
現在お使いの車椅子や、普段の生活のご様子と照らし合わせて、 以下の項目のうち、ひとつでも当てはまる場合は、標準タイプの車椅子では体を支えきれていない可能性があります。
- 体が左右に傾いたり、前にずり落ちてくる
- 「お尻が痛い」「疲れた」と訴える、自分で座り直すことができない
- 膝や股関節が固くなっていて、直角(90度)に曲げて座るのがつらい
- 食事のとき、頭がグラグラして飲み込みにくそうにしている
- 起立性低血圧などで、車椅子に乗ったまま休憩する必要がある
もし上記に当てはまる場合、ティルト・リクライニング車椅子を検討しても良いかもしれません。
1. 体が左右に傾いたり、前にずり落ちてくる

標準的な車椅子は、ご自身で「姿勢を正せる人」を前提に作られています。
そのため、体を支える筋力が弱っている方が座ると、重力に負けて徐々にお尻が前へ滑り出し、「ずっこけ座り(仙骨座り)」になってしまいます。
ティルト機能を使って車椅子ごと後ろに傾けると、体圧を「お尻」だけでなく「背中全体」で受け止めることができます。 筋力が弱くても体がずれるのを防ぐことが期待できます。
2. 「お尻が痛い」「疲れた」と訴える、自分で座り直すことができない

「お尻が痛い」という訴えは、姿勢の崩れによって体重が坐骨などの「一点」に集中しているサインかもしれません。
筋力低下などで体が傾いたり、お尻が前に滑ったりすると、座骨や仙骨などの特定部位に過度な負担がかかります。
ティルト・リクライニング車椅子なら、角度を調整して体重を「背中全体」へ分散できるため、痛みや床ずれのリスク軽減が期待できます。
3. 膝や股関節が固まっていて、直角(90度)に曲げて座るのがつらい

「拘縮(こうしゅく)」がある方にとって、標準タイプの車椅子では、姿勢保持が難しい場合があります。
このような場合は、「体に車椅子を合わせる」ことが重要です。
背もたれの角度を広げられるリクライニング機能を使えば、股関節が伸びた状態でも状態に合わせることが期待できます。
また、膝が伸びきって曲がらない場合は、足を上げる「エレベーティング機能」がついた車椅子を選ぶと良いです。
4. 食事のとき、頭がグラグラして飲み込みにくそうにしている

姿勢が崩れて頭が後ろに反り返ったりしていると、飲み込むための筋肉がうまく働きません。この状態で無理に食事をすると、食べ物が気管に入ってしまう「誤嚥(ごえん)」の危険があります。
安全に食事を飲み込むためには、「顎を引いた姿勢」と「首の安定」が不可欠です。 ティルト機能で体を少し後ろに倒して体幹を安定させ、その上で「ヘッドサポート(枕)」を使って首をしっかり支えましょう。
5. 起立性低血圧などで、車椅子に乗ったまま休憩する必要がある

起立性低血圧による立ちくらみや体力の低下がある方にとって、背もたれが直角に近い標準的な車椅子に座り続けることは、想像以上に体力を消耗します。
無理に座り続けると気分が悪くなり、「もうベッドに戻りたい」と離床を諦めてしまう原因にもなりかねません。
リクライニング機能があれば、疲れた時にその場で「安楽な休息姿勢」をとることができます。
体調に合わせて角度を調整できるため、無理なくベッドから離れる離床時間を増やすことにもつながります。
「ティルト」と「リクライニング」の違いについて
「ティルト」と「リクライニング」は、背もたれが倒れるなら、どっちも同じじゃないの?
「倒れる仕組み」と「解決できる悩み」が異なります。
ティルト(座面ごと後ろに傾く)

背もたれと座面の角度(主に90度)を保ったまま、椅子全体が後ろに傾く機能です。 お尻と太ももの位置関係が変わらないのが特徴です。
リクライニングだけだと、背もたれを倒した時にお尻が前へ滑りやすくなりますが、ティルトは座面ごと傾くため、お尻が滑り落ちる心配がありません。
「ずっこけ座り」の方には、この機能が滑り止めの役割を果たし、姿勢保持につながります。
座ったままだと体重はお尻に集中しますが、後ろに傾けることで、体重を「背中全体」で受け止めることができます。
お尻にかかる圧力を分散できるため(除圧効果)、お尻の痛みを和らげ、床ずれ(褥瘡)のリスクを減らす効果が期待できます。
リクライニング(背もたれだけ倒れる)

背もたれの角度だけが後ろに倒れる機能です。
座面の角度は変わらず、背中部分だけが動きます。
背中を伸ばしてゆったりとリラックスできるため、長時間座っていて疲れた時や、急に血圧が下がって気分が悪くなった時などに、その場で休むことができます。
また、股関節が固まっていて90度に曲がらない方の場合、背もたれを倒すことで体型に合わせた角度に調整することができます。
ティルトとリクライニングの操作順
リクライニング動作は、背もたれを動かす時に背中がシートに引きずられて(摩擦がおき)、お尻がズルズルと前へ滑り出してしまうことがあります。
これを防ぐためには、「ティルト機能」を合わせて使うことがおすすめです。
ティルトとリクライニングが両方ついている車椅子の場合、以下の順番で操作すると体がズレにくくなります。
1. 倒すとき: まず「ティルト」で傾けてから → 「リクライニング」を倒す
2. 起こすとき: 「リクライニング」を起こしてから → 「ティルト」を戻す
「ちなみに、なぜ『リクライニング・ティルト』ではなく『ティルト・リクライニング』という順番で呼ばれることが多いかご存知ですか?
操作する順番が関係しています。
先に『ティルト(座面ごと傾ける)』を行ってから『リクライニング(背を倒す)』をすることで、体のお尻のズレを最小限に抑えられるからなんです。(と業界の方から聞きました)
名前にまで、正しい使い方のヒントが隠されているのは面白いですよね。」
住宅環境や介助者に合わせた失敗しない3つの選び方
カタログのスペックを見るだけでは、実際の使い心地は分かりません。
ご自宅の環境や生活スタイルに合わせた、ティルトリクライニング車椅子の選び方をご紹介します。
1. 「サイズと小回り」で選ぶ(コンパクト・6輪)
ティルト・リクライニング車椅子は、複雑な機能を持つため車体が大きくなりがちです。
標準的なサイズでは、日本の住宅に多い幅70cm〜80cm程度の狭い廊下やドアを通れないケースがあります。
室内で使用する場合は、車体の大きさと小回り性能を確認しましょう。
狭い室内におすすめなのが「コンパクトタイプ」や「スリムタイプ」です。
全幅や全長を抑えた設計により、マンションの狭いトイレや玄関でもスムーズに移動できます。
限られたスペースでも圧迫感が少なく、介助者が操作する際の負担も軽減されます。
もう一つの選択肢は「6輪タイプ」です。
タイヤが6つあり、中央のタイヤを中心にその場で回転できるのが特徴です。
直角に曲がる廊下や行き止まりでも、何度も切り返す必要がありません。
移動のストレスを減らせるため、室内移動に最適です。
2. 「介助者の負担」で選ぶ(軽量モデル)
一般的なティルト・リクライニング車椅子は、複雑な構造のため重量が20kg〜30kgにもなります。
通院などで「いざ車に乗せる」という時、この重さは女性や高齢の介助者にとって大きな負担になります。たまの外出でも、無理をすれば介助者の腰を痛める原因になりかねません。
ティルト・リクライニング車椅子製品には、機能を維持しつつ20kg以下に抑えた「軽量モデル」です。
例えば、メーカー「ミキ」の『CRT-WR』は約16.8kgと、女性でも扱える軽さを実現しています。 車への積み込みが楽になるだけでなく、毎日の室内移動でも取り回しが楽になります。
3. 「身体状況」で選ぶ(移乗・調整機能)
ベッドやトイレへの乗り移りが大変なら、「移乗機能」について確認しましょう。
特に役立つのが、肘掛けが上がる「跳ね上げ機能」と、足置きが開く「スイングアウト機能」です。
これらを使えば車椅子をベッドに横付けでき、移乗介助の負担軽減が期待できます。
膝が固まって曲がらない「拘縮(こうしゅく)」がある方は、「エレベーティング機能」付きを選びましょう。
足置きの角度を上げて、膝を伸ばした状態で固定できます。
リクライニングで背もたれを倒した際も、足が引っ張られず楽な姿勢を保てます。
背中が丸まる「円背(えんぱい)」がある方は、「背張り調整機能」について確認しましょう。
背もたれのベルトを緩めることで、背中を包み込むように支えられます。
福祉用具専門相談員が選ぶ!おすすめ機種5選
マイチルト・コンパクトⅡ┃松永製作所
特徴
・ティルト(0~30°)&リクライニング(90~125°)機能により、休息姿勢(リラックス)と活動姿勢(自立支援)の両立が可能です 。
・業界初の上部胸椎サポートパッドを採用し、背もたれの高さを60cmから67cmへ調整できるため、背の高い方でも肩甲骨までしっかり支えられます 。
・360度自由自在に動く「スネークヘッドサポート」が、ご利用者の頭の位置や傾きに合わせてピタッとフィットします 。
・空気管理不要の「ハイブリッドタイヤ(ノーパンク)」や、前後どちらからでもロック可能な「前後連動式フットブレーキ」を搭載し、メンテナンスと介助の手間を軽減します 。
重量:25.5kg
サイズ
全幅:53cm
全長:98cm
座幅:40cm
前座高:43cm
座奥行:38cm
耐荷重:100kg
素材:アルミフレーム
カラー:M-12、M-14
※型番によって、エレベーティング、リフトアップ機能の有無などが異なります
カルティマ CRT-WR┃ミキ
特徴
・「大きくて重い」というティルト&リクライニング車椅子の常識を覆す、重量16.8kgの超軽量・コンパクトモデルです 。
・全幅55cmとスリムなため、狭い居住空間や廊下でもスムーズに取り回しが可能です 。
・ティルト角度(2~30°)とリクライニング角度(95~130°)の調整が可能で、体圧分散や姿勢保持に優れています 。
・専用の「エアールクッション」や、介助者の腰への負担を軽減する「足踏み連動式駐車ブレーキ」を標準装備しています 。
重量:16.8kg
サイズ
全幅:55cm
全長:104~105cm
座幅:40cm
前座高:43.5cm
座奥行:40cm
耐荷重:100kg
素材:アルミ
カラー:ブラック(A-17)
SKR-8┃ミキ
特徴
・6輪仕様のため最小回転半径が小さく、圧倒的な小回り性能を実現しています。
・全幅48cmと非常にスリムで、狭い廊下や室内でもスムーズに移動できます。
・ティルト&リクライニング機能を搭載し、体圧分散と姿勢保持をサポートします。
・座奥行きが36cmと短めに設計されており、小柄な方でもしっかりと奥まで座れます。
重量:22.1kg
サイズ
全幅:48cm
全長:98cm
座幅:40cm
前座高:37.5 / 40 / 42.5cm
座奥行:36cm
耐荷重:100kg
素材:アルミ
カラー:ブルー、レッド、ブラウン
ティルト&リクライニング車いす KXL16-42 ┃ カワムラサイクル
特徴
・「ティルト(0~20°)」と「リクライニング(90~120°)」が独立して可動し、身体を拘束することなくゆったりとした座位保持が可能です 。
・背中の形状に合わせて調整できる「適合調整シート」と、体の横倒れを防ぐ「体幹支持パッド」や「アンカーパッド」が標準装備されています 。
・脚部はスイングアウトおよび取り外しが可能で、肘掛けの高さ調整もできるため、ベッド等への移乗がスムーズに行えます 。
・介助用ティルト&リクライニング車いすとしては軽量で、空気補充が不要なノーパンク(ソフト)タイヤを採用しています 。
重量:21.0kg
サイズ
全幅:57.5cm
全長:102cm(最長144cm)
座幅:42.0cm
前座高:44.0cm
座奥行:39.0cm
耐荷重:100kg
素材:アルミ
カラー:シアンレザー(No.99)、濃紺チェック(A13)、本革調緑(No.47)
NAH-UC・Lo(低床タイプ)┃日進医療器
特徴
・「ティルト&リクライニング機能」により、座面と背もたれの角度調整が可能で、体圧分散と前滑り防止を実現し、長時間座っていても快適に過ごせます 。
・全幅わずか54cmのコンパクト設計に加え、スリムでありながら居住性は確保されており、狭い廊下やドアの通過もスムーズです 。
・「移乗サポート機能」として、フットサポートのスイングアウト・取り外し機能や、アームサポートの高さ調整機能を備え、ベッドや椅子への乗り移りが楽に行えます 。
・介助者が立ったまま操作できる「足踏み駐車ブレーキ」を搭載しており、腰への負担を軽減します 。
重量:18.6kg
サイズ
全幅:54cm
全長:111cm
座幅:40cm
前座高:40cm
座奥行:36cm(最奥部40cm)
耐荷重:100kg
素材:アルミ
カラー:サックスレザー、インディゴ、ワイン
NAH-UC・Hi(高床タイプ)┃日進医療器
特徴
・そのまま座るだけで理想的な姿勢をサポートする「調整不要の3Dシート」を装備し、お尻を包み込むような快適な座り心地を提供します 。
・最大30度のティルトおよびリクライニング機能により、ゆったりと休息をとることができ、姿勢の崩れを防ぎます 。
・介助ブレーキには、軽い力でもしっかり効く「内拡式コンパクトドラムブレーキ」を採用し、ワイヤーには耐久性の高いステンレス素材を使用しています 。
・メンテナンスが楽な「ノーパンク(ハイポリマー)タイヤ」を標準装備しています 。
重量:19.7kg
サイズ 全幅:56cm
全長:113cm
座幅:42cm
前座高:45cm
座奥行:38cm(最奥部42cm)
耐荷重:120kg
素材:アルミ
カラー:サックスレザー、グリーン、インディゴ、ワイン
| 製品名 | 特徴 | 重量 | 全幅 | こんな人におすすめ |
| マイチルト・コンパクトⅡ | 高い姿勢保持力 | 25.5kg | 53cm | 小柄な方・姿勢をしっかり支えたい方、狭い廊下や室内で使いたい方 |
| カルティマ CRT-WR | 圧倒的な軽さ | 16.8kg | 55cm | 女性や高齢の介助者・車に積む方 |
| SKR-8 | 6輪で小回り抜群 | 22.1kg | 48cm | 狭い廊下や室内で使いたい方 |
| KXL16-42 | 独立調整・多機能 | 21.0kg | 57.5cm | 体型に合わせて細かく調整したい方 |
| NAH-UC(ウルトラ) | 調整不要の快適性 | 18.6kg~ | 54cm~ | 簡単に座り心地を良くしたい方 |
まとめ:「座る姿勢」が変われば、介護生活は楽になります
今回の記事では、ティルト・リクライニング車椅子の選び方とおすすめ機種をご紹介しました。
- 体がずれる・お尻が痛いなら:迷わず「ティルト機能」があるものを選ぶ。
- 長時間座って休憩したいなら:「リクライニング機能」でリラックス姿勢を作る。
車椅子は単なる「移動手段」ではありません。
ご本人が一日の大半を過ごす「居場所」そのものです。
体に合わない車椅子に座り続けることは、ご本人にとって苦痛であり、それをケアするご家族にとっても大きな負担となります。
「施設に入所中で購入が必要」「自分好みの色や機能を選びたい」という方は、今回ご紹介した「厳選5機種」をぜひチェックしてみてください。
どの製品も、機能性と実績を兼ね備えたモデルです。身体状況と使用環境に合わせて選んでみてください。
適切な車椅子を選ぶことで、ご本人の表情が穏やかになり、ご家族の介護負担が少しでも軽くなることを心から願っています。
2015年に福祉用具専門相談員の資格を取得。北海道を拠点に10年以上、現場での選定・適合に携わっています。
介護用品は「高機能=正解」ではありません。カタログスペックよりも、「使う人の身体や環境に合うか」を最重視しています。
当ブログでは、メリットだけでなく「こういう人には合わない」という注意点も発信しています。後悔しない用具選びをお手伝いします。
保有資格: 福祉用具専門相談員 / 福祉住環境コーディネーター2級
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