はじめに
毎日のベッドから車椅子への移乗介助で、腰痛などに辛い思いをされていないでしょうか?
「夫の体が重くて持ち上がらない」 「このままでは腰が壊れて、共倒れになってしまう…」
もしかしたら、その辛さの原因は、今使っている用具が合っていないことにあるかもしれません。適切な福祉用具を選ぶことで、介護が楽になるケースもあります。
この記事では、福祉用具専門相談員として多くの在宅介護現場を見てきた私が、移乗介助の負担軽減につながる福祉用具の活用についてご紹介します。
- 「標準型車椅子」での移乗介助が腰痛を招くことも
- 持ち上げずに横へスライドできる「多機能車椅子」の選び方
- 滑らせるだけで移乗できる「スライディングボード」の活用法
- 知っておきたい「介護リフト」の活用法
「福祉用具」をうまく活用することによって、今の辛い状況を変えるヒントになれば幸いです。
「標準型車椅子」での移乗介助が腰痛を招くことも
標準型とは、肘掛けや足置きが「固定」されている、最もシンプルなタイプの車椅子です。
移乗介助の場面では、固定された肘掛けが邪魔になります。

標準型だと腰を痛めやすいのは、肘掛けが動かないために、介護される方を抱きかかえて介助しなければならないからです。
無理な体勢で抱え上げられることは、利用者さんにとっても身体が締め付けられたり、「落とされるかも」という恐怖心を感じたりするリスクがあります。
現状使用している福祉用具が介護される方の身体に合っているか、疑ってみる必要があります。
【対策1】多機能車椅子への変更で負担軽減
移乗介助の負担を減らすための第一の対策は、使用している車椅子を見直し、「多機能タイプ」へ変更することです。
「標準型」の車椅子は、肘掛けや足置き(フットサポート)が固定されており、移乗の際にそれらが障害物となって動きを制限してしまうことがあります。
一方、多機能車椅子はこれらのパーツを動かすことができるため、移乗時のスムーズな動線を確保できます。
「肘跳ね上げ機能」が持ち上げない移乗につながる

多機能車椅子の機能の中でも、移乗を楽にするのが「肘跳ね上げ(アームサポート跳ね上げ)」機能です。
この機能を使って肘掛けを上に跳ね上げたり取り外したりすることで、ベッドと車椅子の座面をフラットな状態で近づけることができます。
抱きかかえて「垂直に持ち上げる」動作が不要になり、お尻を少し浮かせて「横へスライドさせる」だけで移乗が可能になります。
この「横移動(スライド)」が可能になることで、介助者が腰を痛めるリスクを大幅に減らせるだけでなく、利用者ご本人にとっても、高く抱き上げられる恐怖感や身体への圧迫感がなくなり、安心して移乗ができます。
「スイングアウト」で被介助者との距離を縮める

もう一つ、移乗を楽にする機能が、足置き(フットサポート)を左右に開いたり取り外したりできる「スイングアウト」です。
標準タイプの車椅子は足元のフレームが固定されているため、ベッドに近づこうとしても、「距離」ができてしまいます。
これが移乗介助の大きな負担になります。
スイングアウト機能があれば、車椅子をベッドのギリギリまで寄せることが可能です。
無理に腕を伸ばして引き寄せる必要がなくなり、自分のお腹に引き寄せるように介助できるため、腰への負担が大幅に軽減されます。
「あと少し近づけたら楽なのに」という悩みを解決してくれる、移乗介助には必須の機能と言えます。
【対策2】スライディングボードで「滑らせる」
車椅子を「多機能型」に見直したら、次は持ち上げない介護をするための福祉用具を取り入れましょう。
それが「スライディングボード」です。
「持ち上げる」から「滑らせる」ことで、介護する方の腰を守ることができます。
スライディングボードの活用
スライディングボードとは、ベッドと車椅子の間に「架け橋」のように渡して使う、よく滑る板のことです。
使い方はシンプルで、ボードの上にお尻を乗せて、横に滑らせるだけ。
これまでのように、体重を支えて抱え上げる必要はもうありません。
「抱え上げない」ことは、介助者の腰痛予防になるだけでなく、抱えられるご本人の恐怖感や身体への負担を減らすことにもつながります。
ベッドの高さ調整で、さらに移乗が楽に

現場でよくアドバイスさせていただくのが、「ボードを使う前に、ベッドの高さを調整すること」です。
ただボードを使うだけでは不十分な場合があります。
• ベッドから車いすへ移るとき
ベッドの高さを、車いすの座面より少し高めにすることで、滑り落ちる力を利用してスムーズに移乗できます。
• 車いすからベッドへ戻るとき
逆に、ベッドの高さを車いすの座面より低くします。
このように、電動ベッドの昇降機能を使って「下り坂」を作ってあげてください。
この方法は、肘掛けが跳ね上げられる「多機能車椅子」があって初めて活きてきます。
- 多機能車椅子
- スライディングボード
- ベッドの高さ調整
この3つを組み合わせることで、移乗介助の負担軽減につながります。
【対策3】介助者負担が大きい場合は「介護リフト」を検討

移乗リフトを活用することで、「安全と自立」につながる
介助者の方が移乗介助に限界を感じているなら、無理をせず「移乗リフト」の導入検討もおすすめします。
介助者の身体を守るだけでなく、事故を防ぎ、介護を⻑く続けるための選択になると思います。
移乗リフトのメリット
「人の手の方が温かみがある」と考える方もいらっしゃるかもしれませんが、無理な姿勢での介助は、介助者の腰痛やケガの大きな原因となります。
移乗リフトを使えば、重い身体を持ち上げることなく安全に移乗できるため、身体的負担の軽減につながります。
精神的なゆとりと自立支援
身体的な負担が減ることで、介助者に精神的な余裕が生まれます。
ご本人にとっても、「家族に迷惑をかけている」という心理的負担が減り、意欲や自立心の向上にもつながります。
工事不要で導入できる移乗リフトの活用例
「リフトは設置が大変そう」というイメージがあるかもしれませんが、工事をせずに導入できるタイプもあります。
移乗リフト導入のポイント
車椅子との相性 初めてリフトを導入する場合、「シート型スリング(吊り具)」と「ティルト・リクライニング式車椅子」を組み合わせると、操作が簡単で定着しやすいと言われています。
福祉用具の専門家と相談しながら、身体状況や住環境に合った機器を選ぶことが大切です。
まとめ:福祉用具に頼って、安全で無理のない介護を
この記事では、腰痛のリスクを減らし、移乗介助を劇的に楽にするための3つの対策をご紹介しました。
- 多機能車椅子:肘掛けや足置きを動かし、ベッドとの距離をなくして「横スライド」を可能にする
- スライディングボード:「持ち上げる」負担をゼロにし、ボードの上を「滑らせて」移動する
- 介護リフト:人力での限界を感じたら導入を検討し、介助者の腰と生活を守る
「もっと早く使えばよかった」という声が多いのが、これらの福祉用具です。
ご自宅の環境やご本人の身体状況によって、最適な用具は異なります。
「うちは狭いけれど使える?」「介護保険でレンタルできる?」など、疑問をお持ちの方は、ぜひ一度、ケアマネジャーや福祉用具専門相談員にご相談ください。
本記事が介護のお役に立てていただけますと幸いです。
2015年に福祉用具専門相談員の資格を取得。北海道を拠点に10年以上、現場での選定・適合に携わっています。
介護用品は「高機能=正解」ではありません。カタログスペックよりも、「使う人の身体や環境に合うか」を最重視しています。
当ブログでは、メリットだけでなく「こういう人には合わない」という注意点も発信しています。後悔しない用具選びをお手伝いします。
保有資格: 福祉用具専門相談員 / 福祉住環境コーディネーター2級
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X(旧Twitter): https://x.com/fukushiyouguch


