はじめに
「とりあえず分厚いクッションを敷けばお尻は痛くないよね?」
「仙骨あたりが赤くなりやすくて心配だけど、どれを選べばいいか分からない」
車椅子で過ごす時間が増えると、ご本人もご家族もこのような悩みを抱えることが多くなります。
車椅子クッションにおいて、
「厚くて柔らかい=良い」という考えは、
時に姿勢の崩れや痛みを引き起こす原因になることがあります。
また、適切に体圧を分散できない環境は、褥瘡(床ずれ)のリスクを高める要因にもなります。
この記事では、日々現場でご相談に乗っている福祉用具専門相談員の視点から、
身体状況や生活シーンに合わせた失敗しないクッションの選び方と、
負担軽減に役立つおすすめ製品をご紹介します。
本記事は福祉用具を通じた「予防・負担軽減のサポート」を目的としています。
すでに床ずれ(褥瘡)が発生している、または痛みが強い場合は、クッション選びと並行して、必ず主治医や訪問看護師などの医療専門職へご相談ください。
2015年に福祉用具専門相談員の資格を取得。北海道で10年以上、現場での選定・適合に携わっています。
介護用品は「高機能だから良い」とは限りません。
本当に大切なのは「使う人の身体や生活環境に合っているか」です。
当ブログ『介護マーケット』では、カタログのスペックだけでは見落としがちなポイントを福祉用具専門相談員の視点でご紹介します。
メリットだけでなく、「こういう身体状況や環境の人には合わない」というプロ目線での注意点も正直にお伝えします。
ご本人やご家族が後悔しない、本当に合った用具選びをお手伝いします。
保有資格: 福祉用具専門相談員 / 福祉住環境コーディネーター2級
詳しいプロフィールはこちら
X(旧Twitter): https://x.com/fukushiyouguch
要注意「分厚いクッション」「円座クッション」の落とし穴
お尻の痛みを和らげようと、つい分厚いクッションや円座クッションを選びがちですが、
車椅子での使用には注意が必要です。
車椅子クッション選びの失敗例①
座面が高くなり、足元のサポート(フットレストや足こぎ)に影響が出る

「お尻の痛みを少しでも和らげたい」という思いから、
ついボリュームのある厚手のクッションを選んでしまうケースは多く見られます。
しかし、厚みのあるクッションを敷くと、
その分だけ車椅子の座面全体(前座高)が押し上げられて高くなります。
これにより、「足元の安定感」や「足漕ぎでの移動」に影響が出てしまいます。
フットレストの高さが合わなくなる
足こぎをせずフットレストに足を乗せて過ごす方の場合、
座面が高くなることでフットレストの位置が足から離れてしまします。
今までしっかり乗っていた足が宙に浮いたり、
つま先しか届かなくなったりすると、足元が不安定になります。
その結果、太ももの裏が圧迫されて痛みがでたり、前にずり落ちて姿勢が崩れる原因になります。
厚みのあるクッションに変更した際は、
必ずフットレストの高さもセットで再調整が必要になります。
「足こぎ」の動作が難しくなる
ご自身の足で床を蹴って移動する(足こぎ)方の場合、
スムーズに動くためには足の裏全体がしっかりと床に接地していることが必要になります。
座面が数センチ上がるだけでかかとが浮いてしまい、
つま先立ちのような状態になって床を蹴る力が逃げてしまいます。
「お尻を守る」ことだけに気を取られてしまうと、座位姿勢や移動に影響が出ることがあります。
クッションを選ぶ際は、厚みがもたらす足元への影響も考慮することが大切です。
車椅子クッション選びの失敗例②
ひじ掛けが低くなり「姿勢が崩れる」

厚みのあるクッションを選ぶ際、足元のフットレストと同様に気を付けたいのが
「ひじ掛け(アームサポート)との高さのバランス」です。
座面に分厚いクッションを敷くと、お尻の位置が高くなります。
車椅子のひじ掛けの高さはそのままなので、相対的にひじ掛けの位置が低くなってしまうという現象が起きます。
なぜ「ひじ掛けが低い」と姿勢が崩れやすいのか?
車椅子のひじ掛けは、両腕の重さを預けて上半身をまっすぐ安定させるための重要な部分です。
ひじ掛けが適切な位置より低くなってしまうと、以下のようなことが起きてしまいます。
- 体が傾く
腕をしっかり乗せられなくなるため、ひじ掛けに腕を届かせようとして、
体が左右どちらかに傾きやすくなります。 - 前傾姿勢・ずり落ちの誘発
上半身の支えが不安定になると、背中が丸まり、体が前に倒れやすくなります。
それを防ごうとして、お尻が前へ滑っていく「ずり落ち座り(仙骨座り)」の原因にもなります。 - 疲労感や痛みの原因につながることも
無理な姿勢で、長時間座っていると疲れやすくなります。
肩こりや腰の痛みを引き起こす要因にもなります。
クッションの厚みを変更する場合は、腕が自然な角度(ひじが90度程度に曲がる位置)でひじ掛けに乗せられるかどうかも確認しましょう。
ひじ掛けの高さ調整機能(アームサポート高調整)がついている車椅子の場合は、クッションの厚みに合わせて高く設定し直すことが不可欠です。
💡 背中の痛みや、左右への傾きが気になる方へ
座面のクッションだけでは上半身の姿勢が保てない場合は、
背もたれ専用のクッション(バックサポート)を併用することで安定することがあります。
詳しくは以下の記事をご参考ください。
車椅子用背もたれクッション(バックサポートクッション)の選び方とおすすめ9選
車椅子クッション選びの失敗例③
良かれと思った「円座クッション」が逆に負担となるケース
お尻や尾てい骨(仙骨)付近の痛みを心配し、ご家族が真ん中に穴の開いた「円座クッション」を用意されるケースはよく見受けられます。
「患部が直接当たらないから痛くないはず」と思われがちですが、
車椅子での長時間の使用や、床ずれ(褥瘡)予防の観点からは、かえってリスクを高めてしまう可能性があるため注意が必要です。
なぜ車椅子での「円座」には注意が必要なのか?
円座クッションを使用すると、本来であればお尻と太もも裏の「広い面」で分散して支えるべき体重を、「穴の周りの狭い面積」だけで支えることになります。
- 局所への強い圧迫
狭い面積に体重が集中するため、クッションの穴の縁部分が強く押し当てられます。
長時間の局所的な圧迫は、床ずれ発生の要因の一つになると言われています。 - 皮膚が引っ張られる「ズレ」の発生
お尻が中央の穴に向かって沈み込むことで、
仙骨まわりの皮膚が引っ張られやすくなります。
この「ズレ」や摩擦の力は、圧迫以上に皮膚組織への負担になるとされています。 - 座位姿勢の不安定化
お尻が穴に落ち込むことで骨盤の土台が安定せず、
姿勢が崩れやすくなる傾向があります。
車椅子のように長時間座る環境での負担軽減には、圧力を面全体に均等に逃がす「体圧分散」に特化した車椅子専用クッションを使用することがおすすめです。
すでに皮膚が赤くなっている、痛みがある、または床ずれ(褥瘡)が発生している場合は、
自己判断でクッションを変更する前に、主治医や訪問看護師などの医療専門職へご相談ください。
適切な治療と医学的な評価を受けることが大切です。
失敗しない!車椅子クッション「3つの選び方」
クッション選びは、サイズ・材質・生活シーンの3つの視点がポイントになります。
① サイズ・硬さ・形状で選ぶ
車椅子の座面幅と座奥行に適合する寸法をよく確認することが大切です。
また、柔らかすぎるとお尻が深く沈み込んで骨盤が後ろに倒れやすくなるため、
移乗が多い方は沈み込みが少ない「硬め」、
痩せて骨が出っ張っている方は「柔らかめ」など、状況に応じた選択が必要です。
② 材質と「生活シーン」に合わせて選ぶ
外出や足こぎメインの方
お尻が痛い・尿漏れが心配な方
床ずれリスクが高い方
クッションだけでなく「車椅子そのものの調整」も見直そう
いくら体圧分散に優れたクッションを選んでも、
土台となる車椅子自体がご本人の身体に合っていなければ、
本来の効果を十分に発揮することはできません。
快適な姿勢づくりには、クッションと車椅子両方の「適合」が欠かせません。
- 座面の「幅」は広すぎないか?
「ゆったり座れるように」と大きめの車椅子を選んでしまうケースがありますが、
座面幅が広すぎると、両腕をひじ掛けに乗せるために身体が傾いてしまいます。
その結果、片側のお尻にばかり体重がかかり、負担が集中する原因になります。
適切な座面幅の車椅子を選ぶことが重要です。 - フットレストやひじ掛けの「高さ」はクッションに合っているか?
前述の「クッション選びの失敗例」でも解説した通り、
クッションの厚みを変えると、フットレストやひじ掛けの高さが変わります。
クッションを新しくした際は、足が浮いていたり、ひじが届かず姿勢が崩れたりしていないか、必ずセットで車椅子側の高さ調整を行ってください。 - 「ティルト・リクライニング機能」の検討
ご自身で姿勢を保つことが難しい場合や、
前へのずり落ち(仙骨座り)が強く見られる場合は、
クッションの変更だけでは姿勢の安定が難しいことがあります。
そのような場合は、座面と背もたれの角度を保ったまま全体が後ろに傾く「ティルト機能」や、背もたれが倒れる「リクライニング機能」を備えた車椅子の導入を検討しましょう。
体重をお尻だけでなく「背中全体」に逃がすことができるため、お尻や仙骨への負担を軽減できる場合があります。
👉 「ティルト」と「リクライニング」の違いや、
具体的なおすすめ車種については以下の記事で詳しく解説しています。
「今の車椅子では姿勢が崩れてしまう」
「お尻の痛みがどうしても取れない」とお悩みの場合は、ぜひあわせてご覧ください。
他にも、座面の奥行きや背もたれの張り調整など、
細かく注意しなければいけない点はいくつもありますが、
これらすべてをご自身やご家族だけで判断するのはとても困難なことだと思います。
クッションの組み合わせや車椅子の選定・調整で迷った際は、お近くの福祉用具専門相談員にぜひご相談ください。
身体状況と生活環境に合わせた最適なフィッテイングを一緒に考えさせていただけると思います。
【お悩み・目的別】おすすめ車椅子クッション7選
【姿勢の安定・扱いやすさ】ウレタン(立体形状)素材のおすすめ
ウレタン素材は比較的軽量で、ご家族が車椅子を折りたたんだり車へ積み込んだりする際の「扱いやすさ」が魅力です。
中でも、お尻や太ももの形に合わせて加工された「立体構造(3D)」のウレタンクッションは、体が左右に傾いてしまう方や、前にずり落ちてしまう方の「姿勢保持」に適しています。
①タカノクッションR ┃ タカノ
特殊ウレタンフォームの多層多面構造により体圧分散性が高く、
座る時間が長い方、横に傾いてしまう方、移乗が多い方など、
使用ニーズに応じた様々な形状のバリエーションから選べる製品です。

特殊ウレタンフォームの多層多面構造により体圧分散性が高く、仕様ニーズに応じて様々な形状のバリエーションがある製品です。

お尻をすっぽり包み込むこの立体形状がおすすめです。
お悩みに合わせてタイプが選べます。
ウレタン製で軽いため、ご家族が車に積み込む際も負担になりません。
②アルファプラクッション ┃ タイカ
前縁が緩やかなカーブ形状で、太ももを圧迫しにくく快適に座れるクッションです。
吸湿・速乾タイプや撥水・防水タイプから用途に合わせて選べます。

床ずれ防止用マットレスで評価の高いアルファプラ素材を使用。
3層のゲルサンド構造により、体圧分散性と安定性があり、前ずれを防ぐ構造のクッションです。

「安定した姿勢づくり」と「体圧分散(お尻への優しさ)」のバランスが絶妙で、
撥水・防水カバーも選べるため、お食事の際の飲みこぼしが心配な方にも安心してお使いいただけます。
【お尻・仙骨の痛み対策】ジェル(ゲル)素材のおすすめ
③アウルケアシリーズ ┃ 加地
ジェルとウレタンのハイブリット構造で、体圧分散と安定性を両立させたクッションです。
エクスジェルを使用したアウルケアクッションは、坐骨部を包み込むようにサポートし、
底つき感を感じさせない快適な座り心地が特長です。
エクスジェルは、”弾力性”、”柔軟性”、”流動性”に優れ、
座る時に坐骨部分に起きる”衝撃”、”圧力”、”ズレ”の問題を解決します。
これにより長時間の座位保持をサポートします。
また、仙骨が当たりにくいようにスリットが入っているのが特徴です。このスリットにより仙骨部の床ずれリスクを軽減することにつながります。
身体にフィットするストレッチ素材や、誤使用を防ぐ分かりやすいデザインも魅力。
滑り止め加工や防水・難燃カバー付きで、介護現場でも安心して使えます。
車いすに置くだけのシンプル設計も好評です。
体型や状態に合わせて、クッションの厚さ、形状にバリエーションがあります。
クッションの厚さは、床ずれリスクや体型に合わせて、主に3種類。
さらに形状は、座位保持の度合いによって、フラット形状と3D形状、前ズレ防止のアンカー形状の3種類があります。
フラットタイプは、数字の後にFが付く製品。(例:アウルケア40F)
3D形状とアンカー形状は、数字の後にCが付く製品です。(例:アウルケア80C)
数字はクッションの厚みを表しています。
特徴は、仙骨部分にスリット(溝)が入っており、痛い部分が直接当たりにくいデザインになっていること。さらに、「エクスジェル」素材が、お尻が動いたときの「ズレる力」まで吸収してくれるため、
長く座っていても痛みが気になりにくいです。
④ピタシートクッションシリーズ ┃ 日本ジェル

ジェル素材の格子状クッションにより、高い体圧分散とムレ防止を実現しています。
中身のジェル部分は水洗いすることができるため、清潔に保ちたい方に最適です。
また、ご本人に応じて厚さを3種類(35mm、55mm、70mm)の中から選ぶことができます。
ピタシートクッションは、カバーの材質や形状によりいくつかバリエーションが用意されています。
中身のジェルをそのまま水洗いできるため、いつでも清潔に保てます。
立体格子状で通気性も抜群なので、夏場のムレ対策としても優秀です。
⑤デュオジェルクッション ┃ ケープ

大腿部のシリコンジェルと後側の流動ジェル、
ウレタンフォームの組み合わせで体圧分散と安定性を両立しています。
U字構造により坐骨結節に集中する圧力を分散します。

体重がかかりやすい坐骨(お尻の下の骨)への圧迫をU字型に逃がしてくれます。
「柔らかすぎず、でも痛くない」という絶妙な安定感を求めている方にぴったりのクッションです。
【床ずれリスクが高い方】エアー素材のおすすめ
⑥ロホクッション ┃ アビリティーズ・ケアネット

個々に連結した多数の空気セルが独立して沈み込み、
骨ばった部分への圧を自然に逃がしてくれるクッションです。
使用者の体型や姿勢に合わせて空気量を調整できるため、
フィット感を細かく整えられます。
エアセルの高さはロー(5cm)、ミドル(8.3cm)、ハイ(10cm)の3種類があり、
床ずれリスクに応じて選択が可能です。
体幹保持が難しい方には、クァドトロセレクトがおすすめです。
定期的な空気圧調整が必要なので、
使用するには自己管理もしくは、管理できる環境でしようするようにしましょう。
除圧効果が高いエアータイプが適しています。
ご本人の状態に合わせて空気量を細かく調整できるため、骨ばった部分の圧迫を逃がしてくれます。
(※ご家庭での定期的な空気圧の確認が必要です)
⑦パワークッション ┃ モルテン

充電式のバッテリー駆動により、エアセルの硬さ調整や除圧を自動で行うクッションです。
ポンプやバルブから手動で空気圧を調整することが難しいご家庭におすすめです。

バッテリー駆動のため、充電の必要があります。
連続約50時間(クッション上での動きが少ない場合)
連続約15時間(クッション上での動きが多い場合)
こちらの自動調整タイプがおすすめです。
座るだけで機械が最適な圧力に合わせてくれるため、
ご家庭での管理の手間が減り、安心して座っていただけます。
車いすクッション 売れ筋ランキング
4. 「前ずれ・ずり落ち」でお悩みの方へ
「気がつくとお尻が前に滑っている」
「仙骨座りになってしまう」
というお悩みには、姿勢保持(骨盤のサポート)に特化したアプローチが必要です。
体幹を支える3D形状のクッションや、前に滑らないよう工夫されたアンカークッションが有効な解決策なる場合が多いです。
👉 前ずれ・ずり落ち対策に特化したクッションの選び方とおすすめ製品は、
以下の記事で詳しく解説しています。
クッションを替えても「姿勢が崩れる」「痛がる」場合は?
色々とクッションを見直してみても、
「どうしても体が左右に傾く」
「1時間も座っていられない」
という場合、使っている車椅子の種類が、
ご本人の身体に合っていないことが根本的な原因かもしれません。
そのような場合は、クッションだけで無理に解決しようとせず、
体重を背中全体へ逃がすことができる「ティルト・リクライニング車椅子」への見直しも視野に入れてみましょう。
ご本人が安楽に座れる環境をつくり、
ご家族の介助負担も軽くなる「ティルト・リクライニング車椅子」の選び方とおすすめ機種は、
以下の記事で詳しく解説しています。
5. まとめ:身体と環境に合ったクッションで快適な毎日を
車椅子のクッション選びは、褥瘡(床ずれ)予防だけでなく、足こぎのしやすさや介助の負担軽減など、ご本人の「生活シーン」に合わせることが毎日の快適さを左右します。
「厚い=良い」ではありません。
まずは「今一番解決したいお悩み(痛み、前ズレ、尿漏れなど)」を明確にし、
身体状況や日常の過ごし方を基準にクッションを選ぶと、より快適な環境づくりがしやすくなります。
この記事を参考に、現在の状況にぴったりな車椅子クッションを見つけていただけますと幸いです。
2015年に福祉用具専門相談員の資格を取得。北海道で10年以上、現場での選定・適合に携わっています。
介護用品は「高機能だから良い」とは限りません。
本当に大切なのは「使う人の身体や生活環境に合っているか」です。
当ブログ『介護マーケット』では、カタログのスペックだけでは見落としがちなポイントを福祉用具専門相談員の視点でご紹介します。
メリットだけでなく、「こういう身体状況や環境の人には合わない」というプロ目線での注意点も正直にお伝えします。
ご本人やご家族が後悔しない、本当に合った用具選びをお手伝いします。
保有資格: 福祉用具専門相談員 / 福祉住環境コーディネーター2級
詳しいプロフィールはこちら
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